昨今では、IT技術の活用により、従来のビジネスや組織を変革させるDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。しかし、大多数の企業はレガシーシステムを抱えており、それがDXの足枷となっているのが現状です。
DXの遅れは、将来的に大きな経済損失をもたらすことが懸念されているため、レガシーシステムを抱える企業は、早急な対処が必要です。
そこで今回は、レガシーシステムの定義から2025年の崖問題、レガシーシステムの対策方法について解説します。
レガシーシステムとは、メインフレームやオフィスコンピュータなどを筆頭に、システムを導入してから相当な時間が経過し、複雑化・ブラックボックス化などの問題を抱えたシステムを指します。レガシーシステムは拡張性や保守性に欠けるため、最新技術を取り入れにくく、属人化しやすい傾向があります。
これまでのシステムは、法改正や業務変更が発生するたびに、ベンダーによるパッチ提供や有識者による運用による対処が中心でした。業務のほとんどを担当者のみに依存していたこともあり、担当者以外は詳細設計や運用方法を知らないケースが多く、これがレガシーシステムを生み出す要因となっています。
また、2018年9月に経済産業省が発表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』によると、約8割の企業がレガシーシステムを抱えていることが分かりました。
(出典:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~)
レガシーシステムが存在することで、DX発展への足枷、業務の属人化、システムトラブルの発生リスクの上昇、システムの維持管理費の膨大化など、様々な問題やリスクがあります。
DXレポートによると、こうした問題やリスクを克服できない場合、2025年までに年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があることを示唆しています。これが2025年の崖問題です。
2025年の崖問題の背景として以下の問題があり、2025年までに集中的に改善する必要があります。
・2025年にITの人材不足が約43万人に
ITの人材不足は、2015年では17万人だったのに対し、2025年には43万人にまで拡大すると予測されます。深刻な人材不足は解決するまでに相当な時間が必要なため、積極的にAIやIoT技術などの最新技術を取り入れる必要があります。
・2025年までに従来のITサービス市場からデジタル市場への変遷
2017年には従来のITサービスによる経営が9割を占めていましたが、2025年までに6割まで減少するとされています。一方で、デジタル市場が4割まで普及し、業界・職種に応じて臨機応変な経営が求められます。レガシーシステムは柔軟な経営を阻害してしまいます。
・2027年にSAP ERPのサポートが終了
2027年にSAP ERPのサポートが終了予定と発表されました。SAP ERPは全世界で利用されているERPシステムで、企業のビジネスを支えるIT基盤です。日本でもSAP ERPを利用している企業は多く、SAP ERPに頼らないシステム構築へ刷新する必要があります。
もしもこれらの問題を放置してしまったら、レガシーシステムから脱却できずに、ユーザー・ベンダーの双方が将来的なビジネスに大きな不利益を被ります。
レガシーシステムの対策方法を解説します。主な方法として、モダナイゼーションとマイグレションがあります。状況に応じた手法を選択しましょう。
モダナイゼーションとは、古いシステムを活かしながら、ソフトウェアやハードウェアなどを最新のシステム構造に変革することを指します。主な手法はリプレース、リライト、リホストの3つがあり、コストの発生状況、要望や問題への対応速度、システムの規模などを考慮した上で判断します。
リプレースとは、古くなったシステムを同等の機能を備えた別のシステムに移行する手法です。業務内容やビジネスモデルに沿ったシステム構築ができるため、業務効率や生産性が格段に向上します。その一方で、システム全体の改修になるため、移行までに時間がかかることから、抜根的に見直す必要があるシステムに適した手法と言えます。
リライトとは、ビジネスロジックは変更せず、システムに使用しているプログラミング言語を新しい言語に書き換える手法です。リライトを行うことで、新しいOSへの対応、セキュリティ向上などが見込めます。その一方で、新規プラットフォームとの連携ができなかったり、プログラムコードの書き換えに相当な時間がかかります。
リホストとは、既存システムをそのまま別の基盤に移行する手法です。ソフトウェアのプログラム変更はあまり行わないため、低コストかつ短期間で移行できます。その一方で、対応できる範囲が狭い分、他の手法よりもレガシーシステムとしての課題は解消しにくいです。
マイグレーションとは、既存システムの構造は変更せず、データや環境を新しいシステムへ移行する手法です。メインフレームからオープンシステムへ移行したり、オンプレミスからクラウドへ移行することを指します。主な手法はリビルド、ラッピング、リライト、リホストの3つがあり、リライトとリホストはモダナイゼーションと同様の手法です。
ここでは、リビルドとラッピングについて解説します。
リビルドとは、システム全体を1から作り直す手法です。業務内容やビジネスロジックを始め、デジタル市場に沿ったシステムを構築できます。1から作り直すため、膨大なコストが発生し、費用対効果の予測が難しいです。しかし、レガシーシステムを改善する上で最も効果的な方法でもあります。
ラッピングとは、メインフレームに手を加えず、既存のままオープンシステムからアクセスできるようにする手法です。他の手法よりも費用や工数がかからない一方で、既存のアプリケーションやデータベースは据え置きのため、性能の改善や運用コストの削減は期待できません。ユーザビリティ低下により業務効率が下がっているシステムに効果的な手法です。
モダナイゼーション・マイグレーションを成功させるためには、要件・仕様の把握が重要です。
要件・仕様の徹底した把握は、プロジェクト初期で行うべき現状分析とも言えます。要件・仕様を把握することは、既存システムの課題を洗い出すことにも役立ちます。課題が見えれば、モダナイゼーションとマイグレーションのどちらを採用するのか、また、その中の具体的な手法まで決めることができます。
プロジェクト始動後に次々と方針がブレてしまっては、細かい要件変更の多発したり、確実な移行が難しくなるため、軽視せずに必ず把握するようにしましょう。
今回は、レガシーシステムの定義から2025年の崖問題、レガシーシステムの対策方法について解説しました。ご自身のシステムの課題を明確にした上で、最適な対策方法を導き出すことが、レガシーシステムの解消に重要です。